【生物プロセス研究部門セミナー】
講師:天竺桂 弘子 (東京農工大学 農学研究院生物生産科学部門 教授)
講演タイトル:食性に着目した昆虫資源利活用の新たなカタチ
日時:2024年3月5日(火)13:30〜
場所:つくば6-11棟2F第4,5会議室 (215, 216室)、北海道センターとTeams接続
・参加は部門内のみとさせていただきます。
・Teams接続先は後日メールでお知らせします。
要旨: 世界で100万種程度存在する昆虫の約半数は、植物を食べる植食性昆虫である。残りの半数は、植物と動物の両方を食べる雑食性昆虫と、動物の肉、血液、死骸、などを食べる肉食性昆虫である。昆虫の食性は、多様である。本セミナーでは昆虫の食性に着目し、それを活用した研究事例を2つ紹介する。
一つ目は、昆虫および植物種の探索が、医薬品候補物質を発見するための重要なパイプラインとなる可能性を示す研究事例である。
植食性昆虫の中には、他の生物に対しては毒となるような成分を含む植物も利用できる種が存在する。これは植食性昆虫が地球上の植物資源を合理的に分け合うために進化させた術でもある。このように植食性昆虫は、植物由来成分に対して種特有の代謝の仕組みを持つと推定される。歴史的に、アジア諸国では植食性昆虫の糞を煎じて薬として利用してきた。このことは、昆虫が植物由来成分をヒトに対して有用な成分に変換できることを強く示唆している。しかし、植食性昆虫と植物成分の情報の紐づけは行われてこなかった。我々は、植物成分/植食性昆虫のデータを網羅的に収集し、それらを関連ある情報として統合し、TUATinsectaを構築した。次にTUATinsectaを用い、昆虫種を選抜し、実験により植物由来成分が昆虫による代謝を経て変化したかについて検証した。その結果、ヒトガン細胞株に対し、細胞死を誘導する植物と昆虫の組み合わせを見出すことができた。
二つ目は、有機廃棄物処理における昆虫利用についての研究事例である。
気候変動や、紛争などのリスクの発生により食料安全保障上の懸念が高まっている。食料需要を満たすためには、これまで以上に多くの家畜が必要なため、飼料不足に対する懸念が生じている。アメリカミズアブ(Hermetia illucens) は、食品廃棄物類や動物の糞尿などの有機廃棄物を食べる昆虫である。アメリカミズアブの幼虫と蛹には、良質なタンパク質が多く含まれる。 そのため、有機廃棄物を活用したアメリカミズアブ生産が注目されており、各国で大規模なアメリカミズアブ生産工場が稼働している。しかし、日本ではアメリカミズアブの大規模繁殖は困難であり、代替アプローチとして機能性を付与した小規模生産に焦点が当てられている。我々は、アメリカミズアブ幼虫体内で抗菌性ペプチドの産生を増加させる手法を見出すことができた。
(世話役:二橋亮、宮崎亮)