部門セミナー「循環型タンパク質としてのコオロギ活用について 〜大学での研究とスタートアップでの社会実装〜」(3月15日)

トピック
2024-02-28

【生物プロセス研究部門セミナー】
講師:渡邉 崇人 (株式会社グリラス・代表取締役CEO/徳島大学バイオイノベーション研究所・講師)
講演タイトル:循環型タンパク質としてのコオロギ活用について 〜大学での研究とスタートアップでの社会実装〜
日時:2024年3月15日(金)14:00〜
場所:つくば6-11棟2F第4,5会議室 (215, 216室)、北海道センターとTeams接続

要旨: 近年の社会情勢や地球環境の変化により、今まで通りの食料調達は難しくなってきており、今後もこの傾向は続くと考えられる。また、地球全体で見ると急速に人口が増加し、2050年には約100億人に達すると予想されており、食料特にタンパク質の増産は喫緊の課題である。このような状況の中、2013年に国連食糧農業機関(FAO)は新たなタンパク質資源として昆虫を活用する可能性に言及し、報告書「Edible Insects」を発表した。重要な点として、既存の畜産によるタンパク質供給に対して昆虫によるタンパク質生産を比較すると、飼料変換効率や水資源の必要量、温室効果ガスの排出量の観点で優れており、環境に優しい持続可能なタンパク質源となりうることが挙げられている。地球上には100万種とも言われるほど多くの昆虫種が存在するが、産業として注目されている昆虫種は限られている。それらの昆虫が持つ特性としては、①飼育が容易である、②発育が早い、③サイズが比較的大きい、④雑食であるの4点が挙げられる。このような特性を持つ昆虫として、食用としては我々が対象としているコオロギ類やミールワーム類が、産業用としてはアメリカミズアブが挙げられている。
食用コオロギを持続可能な産業としていくために最も重要となるのは、食品残渣を飼料として活用する循環型の生産体制を構築することである。我々は単なる飼育技術の開発だけでなく、食品残渣等の未利用資源からのコオロギ生産を核とした循環型でのコオロギ生産プロセスの全体設計を進めている。年間で何百万トンも排出される小麦や大豆、イモ類などの残渣を活用して食用コオロギを生産する技術は、食品残渣の問題を解決しつつ循環型タンパク質を生産とする方法としても重要である。現在、株式会社グリラスでコオロギに与えている飼料は100%食品残渣由来となっており、循環型食品としての道筋が見えてきたところである。
昆虫食である食用コオロギを社会へ浸透させるためには、コオロギを原料とした一般食品が世の中に流通させることが重要である。これまでに、(株)グリラスではコオロギ粉末やエキスを外部企業に販売することや、コオロギ粉末を使用した自社商品の開発・販売を進めることで社会実装を行ってきた。社会実装に向けた最も大きな課題が、消費者における心理的なハードル・抵抗感である。最近も、SNS等により様々なネガティブな情報が飛び交い、一種の炎上状態となったことが記憶に新しい方も居られると思う。まだまだ超えなければならない壁も多いが、食品残渣を活用したコオロギ生産によって実現される、環境負荷の低い循環型の動物性タンパク質生産体制は、食料問題への解決策の一つとして大変重要であると考えている。開発中の技術を核として、循環型の食用コオロギ産業を大きなものにするべく事業を推進していきたい。

世話役:二橋亮、宮崎亮