第16回ERATO共生進化機構先端セミナー
講師: 勝間 進 博士(東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授)
演題: ボルバキアはいかにしてチョウ目昆虫をオス殺すのか-オス殺し因子の同定と今後の展望
日時: 2022年10月12日(水)16:00(JST)~(参加費無料・要事前登録)
- 講演会ポスターはこちらからダウンロードいただけます。
講演要旨: 共生細菌であるボルバキアは昆虫の60%以上に感染しており、その宿主制御の巧みさも相まって「最も成功した寄生者」と言われている。ボルバキアは、オス殺し、遺伝的オスのメス化、単為発生、細胞質不和合という4種類の性・生殖操作を行うが、これらのうち実行因子とその分子機構が解明されているのは、ショウジョウバエに感染するボルバキアwMelの細胞質不和合だけである(LePage et al., Nature, 2017)。オス殺しに関しては、同じくwMelから同定されたWO-mediated killing (wmk)が有力な候補因子として報告されているが(Perlmutter et al., PLoS Pathog., 2019)、その作用機序は解明されていない。私たちの研究室では長年にわたり、カイコの性決定遺伝子の同定を目指してきたが、2014年にW染色体上のpiRNAがメス決定因子であることを明らかにすることができた(Kiuchi et al., Nature, 2014)。さらにその発見をきっかけにして、ボルバキアがチョウ目昆虫においてオス化と遺伝子量補償を担うMasculinizer(Masc)をターゲットとしてオス殺しを引き起こしていることを証明した(Fukui et al., PLoS Pathog., 2015)。その後、いろいろな試行錯誤を経て、ついにボルバキアが持つオス殺し因子の実体を同定し、その作用機序を解明することに世界で初めて成功した。本発表では前半にカイコの性決定研究からボルバキア研究への流れについて、後半ではボルバキアオス殺し因子の同定プロセスやそのユニークな性状と作用機序について紹介し、今後の研究の展望についてディスカッションさせていただければと考えている。
関心ある方々の参加を歓迎いたします。
主催: ERATO深津共生進化機構プロジェクト
連絡先: 深津 武馬(生物プロセス研究部門首席研究員、t-fukatsu@aist.go.jp)