第10回ERATO共生進化機構先端セミナー
講師: 市橋 伯一 博士(東京大学 大学院総合文化研究科 教授)
演題: 自己複製RNAの進化が生み出す寄生と共生
日時: 2022年6月2日(木)16:00(JST)~(参加費無料・要事前登録)
- 講演会ポスターはこちらからダウンロードいただけます。
講演要旨: 生物の進化ほど不思議で面白いものはないと思う。しかし、生物はそれ自体が極めて複雑なシステムであるため、その進化を理解することはなおさら難しい。そこで私たちは、生物のように自己複製して進化するが、生物よりもずっと単純な自己複製RNAを使うことにより、進化という現象を理解しようとしている。この方法の利点は、進化が目の前で起こるため進化途中のすべての集団を解析でき、またRNAの単純さのために集団組成とその世代変化を網羅的に解析できることにある。さらに、この自己複製RNAシステムは人工的に組み合わせたシステムであり、生物とは違って約40億年の進化を経験していないことから、天然生物を使っていては見えないような劇的な進化過程を観察できるのではないかと期待している。これまでに約600世代の進化実験を行ってきたところ、1)寄生型RNAの出現¹、2)寄生型RNAとの共進化による多様化²、3)多様化した系統間で相互依存(共生)しながら増える複製ネットワークの出現³、を見出している。さらにこの多様化と複製ネットワークの出現はいつも起きるわけではなく、起こらない場合もあり、その場合はRNAが頻繁に絶滅しやすくなる傾向を見出している。このように自己複製RNAは進化した結果、分子の生態系のようなものを生み出しつつある。この現象はどこまで生物進化と共通性があるのか、議論させていただければ幸いです。
参考文献:
(1) Bansho, Y.; Furubayashi, T.; Ichihashi, N.*; Yomo, T*. Host-Parasite Oscillation Dynamics and Evolution in a Compartmentalized RNA Replication System. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2016, 113 (15)
(2) Furubayashi, T.; Ueda, K.; Bansho, Y.; Motooka, D.; Nakamura, S.; Mizuuchi, R.; Ichihashi, N.* Emergence and Diversification of a Host-Parasite RNA Ecosystem through Darwinian Evolution. Elife 2020, 9, 1–15.
(3) Mizuuchi, R.; Furubayashi, T.; Ichihashi, N. Evolutionary Transition from a Single RNA Replicator to a Multiple Replicator Network. Nat. Commun. 2022, 13, 1460.
関心ある方々の参加を歓迎いたします。
主催: ERATO深津共生進化機構プロジェクト
連絡先: 深津 武馬(生物プロセス研究部門首席研究員、t-fukatsu@aist.go.jp)