公開セミナー「実験室内でのRNAファージQβの適応進化」をオンライン開催(5月20日)

トピック
2022-05-11

第9回ERATO共生進化機構先端セミナー

講師: 柏木 明子 博士(弘前大学 農学生命科学部 教授)
演題: 実験室内でのRNAファージQβの適応進化
日時: 2022年5月20日(金)16:00(JST)~(参加費無料・要事前登録)

講演要旨: 進化生物学において、進化を研究室で直接観察し、生物がどれくらいの速さで環境変化に適応するのか、また、適応進化に貢献する変異やその適応度上昇への貢献度を評価することは重要な課題である。微生物に感染するバクテリオファージは世代時間の短さ、ゲノムサイズの小ささ、集団サイズの大きさのために実験室内進化で上記の課題に対し古くから用いられてきた。

我々は大腸菌に感染する溶菌性RNAファージQβを用い、実験室内進化の手法で適応過程における全ゲノム配列の変化と表現型の変化を明らかにしてきた。Qβのゲノムは4,217塩基のss(+)RNAで4つの遺伝子をコードする。変異率は約10-4 (substitutions/ nucleotide/round of copying)と高い(Bradwell et al., 2013)。そのため、Qβは大腸菌に感染後1時間以内で200~1000の子ファージを産生するが、それらの90%は変異体である。Qβは変異体集団(quasispecies)として存在する。DNAを遺伝情報として持つ生物種に比べ、RNAファージは短時間で環境適応するだろうか。

本講演では、我々が行っている2つのQβの実験室内進化で見られた適応過程について紹介する。それらは、大腸菌とQβの共進化と高温適応進化である。これらの適応進化における、全ゲノム配列解析と適応度の結果より、Qβは、環境変化に伴って適応度が小さくなるが、点変異を蓄積しながら適応度が上がる、そして環境変化に伴って適応度が下がるということを繰り返しながら、高速進化が生じることを明らかにした。

参考文献:
Kashiwagi et al., PLoS Genetics, 2011, Kashiwagi et al., J. Virol., 2014, Kashiwagi et al., Arch. Virol., 2018, Hossain et al., Viruses, 2020.

関心ある方々の参加を歓迎いたします。
主催: ERATO深津共生進化機構プロジェクト
連絡先: 深津 武馬(生物プロセス研究部門首席研究員、t-fukatsu@aist.go.jp)