メタン生成微生物の生理生態

加藤 創一郎 ウェブサイト

メタン生成微生物の生理生態

メタンは「強力な温室効果ガス」、「クリーンエネルギー源」という二つの相反する側面を持つ物質です(図1-1)。地球上で生成するメタン、そのほとんどは微生物の働きにより作られています。つまりメタン生成微生物の生理生態を理解し、その活性を自在に制御することができれば、温室効果ガスの排出低減・持続可能な社会の実現が容易に可能かもしれません。いやまあ世の中そんなに甘くはないのですが。

実際のメタン生成反応を担う微生物(メタン生成アーキア)は、酢酸や水素+二酸化炭素といったシンプルな化合物からしかメタンを生成できません。そのため複雑な有機化合物からのメタン生成には、メタン生成アーキアに基質を供給する様々な微生物(発酵性細菌、有機酸酸化細菌など)の働きも非常に重要です(図1-2)。つまりメタン生成を理解するためには、多種多様な微生物間の共生的代謝の理解も必須になります。

私たちは水田土壌、地下環境(油田・炭田など)、嫌気性廃水処理などで活躍するメタン生成アーキア、およびメタン生成微生物群集における共生代謝を対象とし、さまざまな基礎・応用研究を行っています。

図1-1

進行中の研究課題

高温・高圧の地下環境におけるメタン生成微生物群の培養・性状解析

特に油田や石炭層を対象に、原油や石炭を分解しメタン(天然ガス)を生成する微生物群の培養・解析を行っています。高温(~60℃)・高圧(~200気圧相当の静水圧)条件で微生物を培養可能な特殊な培養システムを構築することで、地下の現場環境を模擬した条件で微生物を培養することに成功しています。

低水素環境を好む・要求するメタン生成アーキアの培養・性状解析

自然環境では、水素利用メタン生成アーキアは他の微生物が放出するきわめて低濃度の水素に頼って生きています。しかし実験室では、自然環境の数千倍~数十万倍もの高濃度の水素を与えられて培養されています。そんなことでメタン生成アーキアの真の姿を見ることができるでしょうか? 私たちは「鉄腐食反応に基づく低水素供給培養システム」を独自に開発し、低水素環境を好む・要求する微生物の分離培養や性状解析に取り組んでいます。

微生物の死菌体を分解しメタンを生成する微生物群集の解析

微生物は動植物の遺体などを分解する「分解者」と呼ばれています。しかし当然、分解者たる微生物自身も死んでしまえば分解される側になります。しかし嫌気環境において、微生物の死菌体をだれがどのように分解しているのかは、意外とわかっていません。私たちは水田土壌などの自然環境や嫌気廃水処理環境を対象とし、微生物の死菌体をメタンにまで分解する微生物群集を培養し、その解析を行っています。

関連する研究成果

総説論文

  • Kato S, Watanabe K. Ecological and evolutionary interactions in syntrophic methanogenic consortia. Microbes Environ. (2010) 25:145-151. [Pubmed]
  • 加藤創一郎、渡邉一哉. メタン発酵共生系の進化と生存戦略. 化学と生物 (2009) 47:253-260. [PDF]
  • Kouzuma A, Kato S, Watanabe K. Microbial interspecies interactions: recent findings in syntrophic consortia. Front. Microbiol. (2015) 6:477. [Pubmed]

原著論文

  • リグニン由来芳香族化合物を分解しメタン生成を行う微生物群の培養とその分解経路の解明
    *Kato S, Chino K, Kamimura N, Masai E, Yumoto I, Kamagata Y. Methanogenic degradation of lignin-derived monoaromatic compounds by microbial enrichments from rice paddy field soil. Sci. Rep. (2015) 5:14295. [Pubmed]
  • 廃水処理における高アンモニアストレスがメタン生成微生物群に及ぼす影響の解析
    *Kato S, Sasaki K, Watanabe K, Yumoto I, Kamagata Y. Physiological and transcriptomic analyses of a thermophilic, aceticlastic methanogen Methanosaeta thermophila responding to ammonia stress. Microbes Environ. (2014) 29:162-167. [Pubmed]
  • 二酸化炭素地下貯留による二酸化炭素濃度の増加がメタン生成微生物群に及ぼす影響を解析
    *Kato S, Yoshida R, Yamaguchi T, Sato T, Yumoto I, Kamagata Y. The effects of elevated CO2 concentration on competitive interaction between aceticlastic and syntrophic methanogenesis in a model microbial consortium. Front. Microbiol. (2014) 5:575. [Pubmed]
  • 複数種の好熱性メタン生成アーキアが固体状酸化鉄の還元能を持つことを実証
    Yamada C, Kato S, Kimura S, Ishii M, Igarashi Y. Reduction of Fe(III) oxides by phylogenetically and physiologically diverse thermophilic methanogens. FEMS Microbiol. Ecol. (2014) 89:637-645. [Pubmed]
  • 易還元性酸化鉄が高温環境でのメタン生成に阻害的に働くことを実証
    Yamada C, Kato S, Ueno Y, Ishii M, Igarashi Y. Inhibitory effects of ferrihydrite on a thermophilic methanogenic community. Microbes. Environ. (2014) 29:227-230. [Pubmed]
  • プロピオン酸分解共生細菌がメタン生成菌の共存下で代謝系を大きく変動させることを解明
    Kato S, Kosaka T, Watanabe K. Substrate-dependent transcriptomic shifts in Pelotomaculum thermopropionicum grown in syntrophic co-culture with Methanothermobacter thermautotrophicusMicrobial Biotechnol. (2009) 2:575-584. [Pubmed]
  • プロピオン酸分解共生細菌が鞭毛を利用しメタン生成菌との共生を創発させることを発見
    Shimoyama T, Kato S, Ishii S, Watanabe K. Flagellum mediates symbiosis. Science. (2009) 323:1574. [Pubmed]
  • メタン生成アーキアのストレス応答時の網羅的遺伝子発現解析
    Kato S, Kosaka T, Watanabe K. Comparative transcriptome analysis of responses of Methanothermobacter thermautotrophicus to different environmental stimuli. Environ. Microbiol. (2008) 10:893-905. [Pubmed]
  • プロピオン酸分解共生細菌のゲノム解析と「ニッチ特異的進化」の提唱
    Kosaka T, Kato S, Shimoyama T, Ishii S, Abe T, Watanabe K. The genome of Pelotomaculum thermopropionicum reveals niche-associated evolution in anaerobic microbiota. Genome Res. (2008) 18:442-448. [Pubmed]