レアアースはスカンジウム (Sc)、イットリウム (Y)、およびランタン (La) からルテチウム (Lu) までの計17元素の総称です (図8-1)。レアアースは「産業のビタミン」とも呼ばれ、高性能磁石や蛍光体などの材料としてハイテク産業に欠かせない元素群です。しかしその産業上の有用性とは対照的に、その生物利用性についてはほとんど注目されていませんでした。
近年になり、メタノールの酸化反応を触媒するメタノール脱水素酵素 (methanol dehydrogenase、MDH) として、カルシウム (Ca) を活性中心とする既知のタイプ (Ca-MDH) に加え、レアアース元素を活性中心とする新規のタイプ (REE-MDH) が存在することが明らかになりました (図8-2)。メタノール酸化反応を中心代謝として有するメタンおよびメタノール酸化細菌の多くはCa-ならびにREE-MDHの両方を有しており、レアアースが利用可能な環境では高活性のREE-MDHを優先的に使用し、レアアースが利用できない環境では低活性ながら元素の入手が容易なCa-MDHを使用すると考えられています。
私たちはこの微生物のレアアース利用能に着目し、メタン酸化細菌のモデル生物を対象としたレアアースの感知や取り込みの分子機構解明、レアアースを利用あるいは要求する新規微生物の探索、などに取り組んでいます。
研究課題
モデル生物を対象としたレアアース利用の分子機構解明
メタン酸化細菌のモデル生物であるMethylococcus capsulatusを対象とし、網羅的遺伝子発現解析や遺伝子破壊株の作製によって、そのレアアース利用(特に低濃度レアアースや不溶性レアアース酸化物の感知や取り込み)の分子メカニズム解明を目指しています。
レアアースを利用・要求する新規微生物の探索
レアアース利用は近年になり新たに発見された微生物の生存戦略であり、レアアースの利用性や要求性を勘案し微生物の単離が試みられた例はこれまでほとんどありません。私たちは特にメタン酸化細菌を対象とし、レアアースを利用・要求する新規微生物の探索を試みています。
関連する研究成果
原著論文
- メタン酸化菌Methylococcusが不溶性のレアアース酸化物を利用可能であることを実証 Xie R, Takashino M, Igarashi K, Kitagawa W, *Kato S. (2023) Transcriptional regulation of methanol dehydrogenases in the methanotrophic bacterium Methylococcus capsulatus Bath by soluble and insoluble lanthanides. Microbes Environ. 38: ME23065. [Pubmed]
- そのへんの普通の池からレアアースを高度に要求するメタン酸化細菌を発見
*Kato S, Takashino M, Igarashi K, Kitagawa W. Isolation and genomic characterization of a proteobacterial methanotroph requiring lanthanides. Microbes Environ. (2020) 35: ME19128. [Pubmed] - レアアース利用能を持つメタン酸化細菌の効率的遺伝子操作法を開発
Ishikawa M, Yokoe S, Kato S, Kato S, Hori K. Efficient counterselection for Methylococcus capsulatus (Bath) by using a mutated pheS gene. Appl. Environ. Microbiol. (2018) 84: e01875-18. [Pubmed] - レアアース利用能を持つメタン酸化細菌の細胞内レドックスモニタリング法を開発
Ishikawa M, Tanaka Y, Suzuki R, Kimura K, Tanaka K, Kamiya K, Ito H, Kato S, Kamachi T, Hori K, Nakanishi S. Real-time monitoring of intracellular redox changes in Methylococcus capsulatus (Bath) for efficient bioconversion of methane to methanol. Bioresour Technol. (2017) 241: 1157-1161. [Pubmed]