セシウムと微生物

加藤 創一郎 ウェブサイト

セシウム(Cs)の放射性同位体は核廃棄物等に由来する放射能汚染の主要な原因物質です。生物を使ったCs回収技術は低コスト・低環境負荷という観点から注目されており、実際にある種の植物や微生物にCs蓄積能が確認されています。しかしこれらの生物は、Csと物理化学的性質が類似するカリウム(K)の輸送システムを介して、いわばKと間違えてCsを取り込んでいるに過ぎません。そのためKがCsよりも多量に存在する環境(すなわちほぼすべての自然環境)ではCsの取り込みは格段に低下してしまいます。

Csは必須元素ではないため、本来生物にとってCsを取り込むメリットはありません。そのため不要なCsを好き好んで取り込むような、人類にとって好都合な生物が地球上にいることは期待できません。自然界にいないのであれば作ってやるしかないでしょう、ということで私たちは分子進化工学の手法を利用し、高いCs取り込み・蓄積能を有する生物の人為的創出を試みています(図9-1)。

研究課題

人工進化によるモデル微生物(大腸菌)のセシウム取り込み能強化

大腸菌は3種のK輸送システム(Kup, Kdp, Trk)を持ち、そのうちKupにのみ非特異的Cs輸送活性が確認されています。しかしKupのCs輸送活性・親和性はKに対するものの1/10以下にすぎません。そこで私たちは、大腸菌のKupタンパクを試験管内で人為的に進化させ、高いCs輸送活性・親和性を持つ変異型Kupを作製・選抜し、K共存下においてもCsを特異的に取り込み・蓄積可能な大腸菌の創出を試みています。

人工進化による植物のセシウム取り込み能強化

実際の放射性セシウムの浄化を考えると、微生物の利用には限界があります。そこで大腸菌のモデル系で得られた知見をもとに、土壌中セシウムの浄化に応用が可能な植物を対象とした人工進化実験を行っています。

関連する研究成果

原著論文

  • 大腸菌のカリウムトランスポーターKupの過剰発現により、大腸菌のセシウム取り込み能が向上しカリウム欠乏条件での生育阻害が緩和されることを実証
    *Kato S, Kanata Y, Kitagawa W, Sone T, Asano K, Kamagata Y. Restoration of the growth of Escherichia coli under K+-deficient conditions by Cs+ incorporation via the K+ transporter Kup. Sci. Rep. (2017) 7:1965. [Pubmed]
  • 通常の生物が阻害を受ける高濃度セシウムに耐性を示す微生物の発見とその耐性機構の解析
    *Kato S, Goya E, Tanaka M, Kitagawa W, Kikuchi Y, Asano K, Kamagata Y. Enrichment and isolation of Flavobacterium strains with tolerance to high concentrations of cesium ion. Sci. Rep. (2016) 6:20041. [Pubmed]