根圏微生物の体内時計

加藤 創一郎 ウェブサイト

根圏微生物の体内時計(概日リズム)

生物は概日リズムと呼ばれる約24時間周期の体内時計を有しており、外界の日周変動を予測しうまいこと適応しています。わかりやすい例で言うと、時差ぼけを引き起こすアレです。概日リズムに関する書籍・論文はよく「ヒトや動植物、昆虫やカビからバクテリアに至るまで、すべての生物は概日リズムを有しています」的な一文から始まります。この文章、確かに間違ってはいないのですが、バクテリアフリークの私たちからすると激しく違和感を覚える文章です。

バクテリア(正確には原核生物)のなかで、これまで概日リズムの存在が実証されているのは、シアノバクテリアなどの光合成微生物だけです。他の有象無象(?)の微生物たちは、概日リズムを持つのか持たないのか、そもそもほとんど調べられてすらいません。そんなことで「すべての生物は概日リズムを有しています」などといけしゃあしゃあと言ってしまっていいのでしょうか?(いやよくない)

確かに光環境は1日の中で明確に変動しますので、光合成微生物が概日リズムを持っているのはみなさん納得でしょう。その他の暗闇でひっそり生きる微生物は、概日リズムなんか持っていても無意味でしょ? いいえ、光以外にも温度や栄養源供給などが周期変動する環境は普遍的に存在します。一例として、植物の根っこの周り(根圏といいます)を考えてみましょう(図7-1)。植物は光が当たる昼間に光合成をし、その光合成産物(有機物)のごく一部や酸素を根から放出します。一方夜間にはその放出は止まります。つまり微生物にとって植物根圏は、なぜだか知らないけど周期的に有機物と酸素が手に入る環境、なのです。もしあなたが根圏に住む微生物だったら、次に有機物と酸素が手に入るタイミングを予測できる能力(つまりは概日リズム)、欲しくなりませんか?

私たちは、特に植物根圏に住む微生物を対象とし、それらの微生物の中に概日リズムを持つものがいないか、いるとしたらその時計機構はどのようなものか(既知生物と同じなのか違うのか)、概日リズムを持つことは彼らにとってどれほどのメリットとなるのか、などを明らかにすべく研究を行っています。

進行中の研究課題

根粒菌が持つシアノバクテリアの時計遺伝子ホモログの機能解析

シアノバクテリアでは、KaiCというタンパクのリン酸化度合が24時間周期で変動することが、概日リズムの中心的機能をになっていることがわかっています。興味深いことに、このKaiCに良く似た遺伝子(ホモログ)が、光合成能を持たない多様な微生物にも保存されていることがわかっています。私たちはその中でも根圏に生息する根粒菌という微生物を対象とし、概日リズム機構の有無やKaiCホモログの機能を調べています。

日周変動環境で良好に生育する微生物の探索

栽培が容易なモデル植物・ウキクサの根圏に共生する微生物群を対象として、日周変動環境で良好に生育する微生物(=概日リズム機構を有している可能性が高い)の探索を行っています。

関連する研究成果

まだありません