エンテカビル感受性改変HIV逆転写酵素

安武 義晃 ウェブサイト

HIV-1 reverse transcriptase with HBV-associated Q151M

現在、B型肝炎ウイルス(HBV)の増殖を直接抑制する治療薬として、エンテカビルなどの核酸アナログ製剤が広く用いられています。核酸アナログ製剤は、ウイルスが持つ逆転写酵素の働きをブロックする強力な抗ウイルス薬ですが、近年、逆転写酵素が変化して核酸アナログ製剤が効かない薬剤耐性ウイルスが報告されています。

薬剤耐性HBV に対応した新たな治療薬の開発には、HBV 逆転写酵素に核酸アナログ製剤が作用した状態の立体構造を解析することが重要です。ところがHBV 逆転写酵素は極めて不安定なタンパク質で、構造研究は全く進んでいません。一方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)の逆転写酵素は比較的安定で構造研究が世界中で広く行われています。HIV-1逆転写酵素とHBV逆転写酵素のアミノ酸配列は大きく異なり、全体構造は全く違ったものと予想されますが、核酸アナログが結合する活性部位では両者に共通したアミノ酸が見つかっており、活性部位の局所構造はある程度似ていると考えられています。そこで、HIV-1逆転写酵素の活性部位アミノ酸をHBV逆転写酵素型に改変した変異体酵素を作製し、B 型肝炎治療薬によってブロックされる性質に変化したHIV-1逆転写酵素が得られないか検討しました。その結果、Q151Mという変異により、HIV-1はエンテカビルに対して強い薬剤感受性を示すように変化しました。さらに、このQ151M変異体にエンテカビルが結合した状態の結晶構造を解析することで、エンテカビルが結合する仕組みや、逆転写酵素がエンテカビル耐性に変化する仕組みが明らかになりました。今回得られた構造情報を利用することで、逆転写酵素の活性部位によりフィットするような核酸アナログ構造を検討することが可能となり、HBVやエンテカビル耐性HBV に対する新しい治療薬の開発が期待されます。

関連論文
  • Nakamura A, Tamura N & Yasutake Y. (2015) Structure of the HIV-1 reverse transcriptase Q151M mutant: insights into the inhibitor resistance of HIV-1 reverse transcriptase and the structure of the nucleotide-binding pocket of Hepatitis B virus polymerase. Acta Crystallogr. Sect. F, 71(11), 1384-1390. [PubMed] [PDB code: 4zhr]
  • Yasutake Y, Hattori SI, Hayashi H, Matsuda K, Tamura N, Kohgo S, Maeda K & Mitsuya H. (2018) HIV-1 with HBV-associated Q151M substitution in RT becomes highly susceptible to entecavir: structural insights into HBV-RT inhibition by entecavir. Sci. Rep., 8(1), 1624. [PubMed] [PDB codes: 5xn05xn1 & 5xn2]