抗生物質の探索および開発は、多剤耐性菌や新たな病原菌への備えとして現在でも極めて重要です。オーラシンREは放線菌Rhodococcus erythropolis JCM 6824株より単離された新規抗菌物質であり、グラム陽性細菌に広く抗菌活性を示します。オーラシン類はキノロン環とファルネシル基から成る天然には稀な物質であり、その骨格がビタミンK2(メナキノン)に類似することから、バクテリアの呼吸鎖を阻害することによって抗菌活性を示すことがこれまでの研究によって明らかにされています。私たちはオーラシンRE生合成遺伝子の同定に成功し、その中でもシトクロムP450をコードするrauA遺伝子がオーラシン骨格に強い抗菌活性を付与するデータを得ました。
P450 RauAの結晶構造解析の結果、ヘム近傍の活性部位ポケットにオーラシンに相当する明瞭な電子密度を認めることができ、キノロン環がヘムのポルフィリン平面と平行となるように結合していることが分かりました。また、キノロン環の窒素N1がヘム鉄に最も近接しており、ヘムに配位した水分子との間に水素結合を形成していました。市販のホウレンソウ由来レドックス蛋白質を利用した再構成アッセイの結果、P450 RauAはN1の水酸化を行うことが確認されました。すなわち、オーラシンREのキノロン環窒素の水酸基は本P450 RauAの機能によって挿入されることが明確になり、またこの水酸基の存在がオーラシンの抗菌活性発現に重要な役割を果たすことが明らかになりました。
関連論文
- Kitagawa W, Ozaki T, Nishioka T, Yasutake Y, Hata M, Nishiyama M, Kuzuyama T & Tamura T. (2013) Cloning and heterologous expression of the aurachin RE biosynthesis gene cluster afford a novel cytochrome P450 for quinoline N-hydroxylation. ChemBioChem, 14(9), 1085-1093.
- Yasutake Y, Kitagawa W, Hata M, Nishioka T, Ozaki T, Nishiyama M, Kuzuyama T & Tamura T. (2014) Structure of the quinoline N-hydroxylating cytochrome P450 RauA, an essential enzyme that confers antibiotic activity on aurachin alkaloids. FEBS Lett., 588(1), 105-110. [PDB code, 3wec ]
- Enomoto M, Kitagawa W, Yasutake Y & Shimizu H. (2014) Total synthesis of aurachins C, D and L, and a structurally simplified analog of aurachin C. Biosci. Biotechnol. Biochem., 78(8), 1324-1327.