電気を介した微生物共生(電気共生)

加藤 創一郎 ウェブサイト

電気をつくる微生物とたべる微生物がいるのであれば、電気をつくる微生物が作った電気を、電気をたべる微生物が食べればなんかうまいこと二人とも生きていけるのではないか、電気共生はそんなシンプルな考えにもとづいています。私たちは、自然界にも存在する導電性物質である酸化鉄の一種(マグネタイト)の粒子があれば、電気をつくる微生物とたべる微生物が共生的な代謝を行えることを実証しました(Kato et al. 2012 PNAS)。またエネルギーのやり取りを介した共生反応を必須とするメタン生成微生物群(メタン生成微生物の項参照)においても、導電性酸化鉄の添加により電気共生が誘導され、かつ通常の場合よりもメタン生成活性が向上することを発見しました(Kato et al. 2012 Environ Microbiol)(図3-1)。

この電気共生を人間世界にたとえてみましょう(図3-2)。あなたとパートナーは電気を通す何らかの物質、例えば鉄の棒の両端を互いに持っています。すると、あなたは食べるだけ食べて息を吸う必要はなくなり、パートナーが代わりに呼吸をしてくれて、それで二人ともがエネルギーを得ることができるというわけです。正直なところ、食べる楽しみを奪われたパートナーがかわいそうでなりませんが、とにかく一部の微生物はそのような変わったエネルギー代謝を駆使して厳しい自然環境を生き延びているのです。

私たちはこの電気共生という風変わりなエネルギー代謝を対象に、分子機構の解明、自然界の物質循環に果たす寄与の解明、および嫌気性廃水処理(メタン発酵)の効率化技術の開発、などを目指した研究を行っています。

進行中の研究課題

電気共生型メタン生成の分子機構解明

電気共生に関与するメタン生成アーキアがどのように固体中の電子を利用しているのか、その分子機構はあまりよくわかっていません。私たちは電気共生型メタン生成のモデル共生系を対象とした網羅的遺伝子発現解析などにより、その分子機構の解明を目指しています。

電気共生型メタン生成反応を利用した嫌気性廃水処理(メタン発酵)の効率化

電気共生によるメタン生成反応は、通常の共生反応よりも効率的であることがわかっています。そこで安価かつ安全な導電性材料の添加により、嫌気性廃水処理(メタン発酵)の高効率化や安定化を可能にするような技術の開発に取り組んでいます。

関連する研究成果

総説論文

  • 加藤創一郎. 電気を使って生きる微生物. モダンメディア (2021) 67: 483-487. [PDF]
  • Sasaki K, Sasaki D, Kamiya K, Nakanishi S, Kondo A, *Kato S. (2018) Electrochemical biotechnologies minimizing the required electrode assemblies. Curr. Opin. Biotechnol. 50: 182-188. (Review article) [Pubmed]
  • *Kato S. Biotechnological aspects of microbial extracellular electron transfer. Microbes Environ. (2015) 30:133-139. (Review article) [Pubmed]
  • Kouzuma A, Kato S, Watanabe K. Microbial interspecies interactions: recent findings in syntrophic consortia. Front. Microbiol. (2015) 6:477. [Pubmed]
  • 加藤創一郎. 細胞外電子伝達:固体を呼吸基質とする微生物たち. 微生物生態学会和文誌 (2014) 29:65-75. [PDF]

原著論文

  • 人工ナノ材料であるグラフェンおよびその誘導体が電気共生型メタン生成を媒介しうることを実証
    Igarashi K, Miyako E, *Kato S. Direct interspecies electron transfer mediated by graphene oxide-based materials. Front. Microbiol. (2020) 10:3068.[Pubmed]
  • 導電性酸化鉄を介した電気共生型メタン生成が地下高温原油貯留槽で進行しうることを実証
    *Kato S, Wada K, Kitagawa W, Mayumi D, Ikarashi M, Sone T, Asano K, Kamagata Y. Conductive iron-oxides promote methanogenic acetate degradation by microbial communities in a high-temperature petroleum reservoir. Microbes Environ. (2019) 34:95-98. [Pubmed]
  • 微生物自身が産生する硫化鉄鉱物が電気共生型メタン生成を媒介しうることを実証
    *Kato S, Igarashi K. Enhancement of methanogenesis by electric syntrophy with biogenic iron-sulfide minerals. MicrobiologyOpen. (2019) 6:e00647. [Pubmed]
  • 導電性酸化鉄の添加により高温メタン発酵微生物群によるプロピオン酸や酢酸からのメタン生成が促進可能であることを実証
    Yamada C, Kato S, Ueno Y, Ishii M, Igarashi Y. Conductive iron oxides accelerate thermophilic methanogenesis from acetate and propionate. J. Biosci. Bioeng. (2015) 119:678-682. [Pubmed]
  • 導電性酸化鉄が電気共生を誘導し共生的な有機酸分解・メタン生成反応を促進することを発見
    Kato S, Hashimoto K, Watanabe K. Methanogenesis facilitated by electric syntrophy via (semi)conductive iron-oxide minerals. Environ. Microbiol. (2012) 14:1646-1654. [Pubmed]
  • 導電性個体を流れる電流が異種微生物の代謝を電気化学的にカップルしうることの実証と「電気共生」の概念の提唱
    Kato S, Hashimoto K, Watanabe K. Microbial interspecies electron transfer via electric currents through conductive minerals. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. (2012) 109:10042-10046. [Pubmed][プレスリリース]